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□地味子さんと愉快な仲間たち




米沢楓子。

高校一年生。

別に目立たなくても良いから平穏な暮らしが欲しかった。





高校生になって半年が経った。本当なら有意義な学校生活をのんびりエンジョイとかしちゃってる予定だったのに、なんだコレは。


うちのクラスは世間で言う『とても可愛い。すごく可愛い。マジで可愛い。』とか言えるような女が2人居る。私から見ればただ人一倍ケバイ&ハデなだけだ。けれどそんなことを口に出してもヒガミだと思われて馬鹿にされるから言わない。
なぜなら私はビン底の黒ぶち眼鏡をして、無駄に長い髪を左右で三つ編みになんかしちゃってる女。
そう、世間で言う『地味な女』だ。
別に世間になんと言われようと気にはしていない。この横から覗いてみたくなるような分厚い眼鏡も、果てしなく悪い視力をカバーしてくれる重要かつ必須アイテムだし。この三つ編みも邪魔な髪をまとめるには最高のスタイルだと思う。長い間この髪型だから今では痕も付いてくれて毎朝編むのが楽だ。なんてことはない。一般女子高生に化粧が必要なように私にもこの眼鏡が必要なだけ。一般女子高生に毎朝コテで髪を巻いてくる奴がいるように、私も毎朝自分の髪を編んでるだけ。


そう、自分自身の生活振りには何ら不満もない。



不満があるのはこのクラスだ。



もう一度言うが、私のクラスには『すごく可愛い』女が2人居る。ついでに言うと『すごくカッコイイ』男も1人居る。



この3人が問題だ。



カワイイ女の1人はアイコ。こいつはギャルい。まだこんなギャルが生息してるのか!?って思うようなギャル。ケバい。ちなみに誰もが羨むナイスバディー。私は特に羨んではない。

もう1人の名前はユミ。こいつは史上最強のぶりっ子。「いや〜ん」とか「え〜ユミわかんな〜い」とか言ったセリフを発しまくる女。黒髪をクルクル縦ロールにしやがって派手な小娘。迷子になってもすぐに見つけられると思う。

この2人はクラスの男子の人気を二分している。クラスの男子は必ずアイコ派かユミ派に所属している。

「アイコさ〜んv」

「ユミちゃ〜〜んv」

といったセリフが毎日飛び交う。いや、キモイんだけど?そのうち男子諸君が2人の名前を学ランに刺繍してきたりしそうで怖い。朝教室に入ったらうちわとかペンライトとかを振ってたらどうしよう。
当の本人たちもなかなか悪い気はしないようで・・・ってかむしろノリノリでアイドル状態だ。
ここでこの2人がクラスの他の女どもから反感を買うんじゃないかと思ったらそれも違う。むしろ師匠のように崇めて金魚のフンのようになっている。いわゆる取り巻きという奴だ。
つまりクラスの女子もこの2人のお陰で二分している。

まじでアホラシイよ。

ちなみに私はどちら派でもない。

地味なお陰でどちらに付かなくても何も言われない。むしろ「来るな」という感じだ。
この地味の極値のビン底眼鏡を愛情込めてハンカチで拭く。

「ああ、今日も地味で居させてくれてありがとう。」

そんなことをとても小声で言いながら今日もクラスの一番前の真中の席にひたすらじっと座っている私。
その後ろではケバ子ことアイコと、ハデ美ことユミの戦いが今日も繰り広げられてる。触らぬ神に祟りなしってね。無関係を決め込むためにカバンの中から単語帳などを出してみた。いつものように無言で読む。朝の逃避方法。このままの状態が毎日続いたら私、すごいバイリンガルな女になれるな。

「あら〜。アイコちゃんおはようv」

語尾にハートを引っ付けてハデ美がケバ子に微笑みかける。

「うわっ。朝からキモイ声出さないでよねー。」

ケバ子の意見に賛成だ。

「いやだ〜。キモイとか言わないでよ〜。アイコちゃん恐い〜。鬼婆みたい〜。」

これはハデ美の意見に賛成だ。確かに鬼婆に似てるよね。特に目元口元。

「はー!?ムカツク!!この胸なし女!!」

「ひっど〜い!!胸はあればいいってもんじゃないでしょ〜!?アイコちゃんみたいのはかえって不気味だよ〜?」

「なんだとー!?」

毎朝こんなんだから嫌になっちゃう。というか毎日おんなじ相手と喧嘩して良く飽きないな。ある意味で感心するよ。

「お前アイコさんになんてこというんだ!!」

「おい、ユミちゃんは胸がなくても可愛いんだぞ!?」

なんて声が外野から続々登場。外野も外野でよくがんばってるね。まったく。
そう、2人はとても仲が悪い。犬猿の仲。

どっちが犬でどっちが猿かは知らないけど。


ガラリ。


もう授業が始まるか始まらないかくらいのこの時、1人の男が教室に入ってきた。

「「「きゃぁ〜〜〜!!ユキ様〜!!!」」」

女どもから黄色い声が上がる。ケバ子、ハデ美の声も含まれる。
モデル並みの背の高さ。特にその足の長さは絶品。サラサラふわふわのトビ色ヘアー。男なのにそれはもう美しい白肌。美しくもたくましくもあるその指。光り輝くその瞳。制服を軽く着崩してそこに立つそのその姿はまるでお伽話に出てくるの王子様のよう・・・とかここにいる女どもが言っているのを聞いたことがある。どう考えたら制服着てる人が王子に見えるのかが不可解だ。むしろ「番町」と呼ぶべきじゃないかと思う。その男は女どもに向かってニッコリと笑いかける。女どもは次々にその場に倒れていった。そう、こいつがこのクラスのカッコイイと言われる男。相川由貴。クラスの女子から『ユキ様』と崇められている。こいつの存在でさらに話はややこしくなる。

このユキとかいう男は何でも成績優秀、スポーツ万能、容姿秀麗。おまけにこの学園の理事長の息子ときた。まあいわゆるモテる条件を兼ね揃えたパーフェクト男だ。だがこいつは史上最悪のオレサマ男だ。

うざい。

マジでうざい。

理事長の息子って事で権力は絶大。他にも色々とコネがあるらしく、この学園内では誰一人逆らえるものは居ない。ヘコヘコしまくり。ゴマ擦りまくり。この男はワガママ言いまくり。

このオレサマ男の前では先生すらミジンコになる。「タルイから自習にして。」とこいつが言って授業が中止になることなんてしょっちゅう。どの先生も苦笑いしながら「理事長によろしく」とだけ言っておめおめと引き下がる。そう言えば、前にこのオレ様男に逆らった生物の先生ってもうそろそろ刑務所から出所したかしら?

そしてケバ子、ハデ美はこの男にホレている。
そしてケバ子ハデ美の取り巻きの男たちは「ユキ様には敵わない。」とか何とか言って二人の恋路を応援してやがる。もっと根性出さんか!!男なら奪ってしまえ!!人生顔じゃないわ!もし顔で恋愛してたら人類はとっくに美男美女尽くめじゃボケ!!とかいうことは言ってやらない。面倒だしね。

そして今日も2人はオレサマ男にアタックする。

「ユキく〜ん。おはよ〜。」

甘ったるい声でハデ美が先制攻撃。

「ユキ君おはよー。」

負けじとケバ子もがんばる。

ちなみに『ユキ君』と呼べるのはケバ子ハデ美の特権である。他の人がこの呼び方をすればあの手この手の制裁が待ち構えている。

「今日も素敵ねユキ君。」

「相変わらずかっこいいわぁ〜。」

露骨。露骨過ぎな誉め言葉だよ。オレサマ野郎はふわぁ〜、とそれは眠そうにあくびをして返事もしない。それはさすがに可愛そうだろ。いくら相手がケバ子ハデ美だからって。

「っもう!ユキ君ったらつれないんだからぁ〜。でもそこがス・テ・キ。」

いや、だからキモイってハデ美。

「ねぇ、ユキ君?そろそろ私かユミのどっちがいいのか選んでくれない??」

第2ラウンドスタート。

「私よねぇ〜?アイコちゃんと違って女の子らしいし、お料理もお裁縫も得意だし。」

・・・調理実習でナベ焦がしてたのはどこの誰だよ。

「はぁあ?ちょっとユミ。何言ってんの?」

そうそう、早く訂正してやれ。

「私の方が上手いに決まってんじゃン。」

おい。米すら炊けない女が何言ってるんだよ。ケバ子、米を洗わずに炊こうとしたのはどこのどいつ?

「何?お前らそんなにオレの彼女になりたいわけ?」

オレサマ野郎はふんぞり返っている。・・・そのままブリッジしてしまえ!!

「「もちろん!!」」

ハデ美・ケバ子の声が揃う。こういうときだけは息ぴったりね。
・・・って、ちょっと待て。

ケバ子。お前この前、男と腕組んでホテルから出てきただろうが!!あれは紛れもなく彼氏という奴だろう!!

ハデ美。お前もこの前二十代くらいの男とリッチな車でドライブとかしてたろ?あれも彼氏じゃないのか?

私は突っ込みを入れたい衝動を英単語を17個浮かべることでようやく抑えた。


「じゅ、授業を始めたいのですけど・・・よ、よろしいですか。」

気づけば教卓に初老の先生。生徒相手に敬語。自分の半分も生きていないオレサマ男に敬語。うわっ。悲しいね。心から同情してあげたいけどそうするとさらに惨めだろうからやめておく。こういう大人にだけはならないでおこうと思う。ありがとう人生の先輩。参考になりました。

「今取り込み中。この時間は自習ね。」

オレサマ男がそうれだけ言うと先生は小さく返事をしてすごすごと帰っていった。

哀れ。

「でもさー。オレ、前の彼女はアイコみたいな奴だったし、その前の彼女はユミみたいな女だったからさー。もう飽きたんだよね。もっと他のタイプの子がいい。」

何サマだテメーは!?・・・オレサマか。

「そんな〜。私ユキ君のためならなんでもするよ〜!?」

「私だってユキ君と付き合うためなら何でも言うこと聞くし。」

「私も!!」

「あたしも!!」

「わたしも。」

「私もーー!!」

ケバ子ハデ美だけでなく、他の女子も参戦。どうやら自分にも可能性があると判断したらしい。さすがにケバ子ハデ美に絶対服従ではないのよね。うん。

いつの間にかケバ子ハデ美のみならず、女子大論争会開催。主催:ケバ子ハデ美。審査員:オレサマ野郎。優勝商品:オレサマ野郎に言い寄る権利。

私は英単語にも飽きたので、数学の教科書なんぞ取り出して三角関数・平方完成・微分積分をひたすらこなす。こんなことでいちいち授業が潰れるから独学で勉強するしかないのよね。私は間違っても元の頭はよろしくない。だからこうでもしなくちゃ留年しかねない。・・・っというか、何でオレサマ野郎は勉強も何もしないのにテストで学年一番とかとれるのでしょうか?神様?これは意地悪ですか?ちょっとしたジョークですか?

「おい、そこのお前。コーラ買って来い。」

可哀想に。ちょっと小心者で小柄でひょろりとした男の子・・・確か名前は山根くん。あなたはたった今、パシリに任命されました。

「5分で行って来い。一秒でも遅れたらどうなるか分かってんだろうな?」

山根君は小さく「ヒッ!」と声を上げると大急ぎで走っていった。小柄な彼は歩幅が小さい。果たして5分で戻ってこれるか。・・・そう言えば、この学校の自販機ってコーラ売ってないよね?あらぁ〜。どこまで買いに行くんだろ。そのまま逃げちゃった方が懸命だと思う。心底そう思う。

「はぁ〜!?何言ってんの!!??」

忘れてた。まだ大論争会は続行中。しかもまるで国会のごとく荒れ模様。

「しらばっくれんじゃないわよ?あんた今現在二股してるでしょ?」

ハデ美にケバ子が言い寄る。やはり他の女たちとこの2人とではやりあえないらしい。もうすでにこの2人の戦いで、他は外野に回っている。一部の女の子たちは泣いている。いったいこの2人に何を言われたのか。

「っ!!アイコちゃんだって三股じゃない!!」

「馬鹿言わないでよ!?私は五股よ!!」

「じゃあアイコちゃんの方が酷いじゃない!私だって三股しかしてないんだから!!」

クラスのうち3名の男が泣き始めた。どうやら五股、三股の被害者らしい。今度はもっとおしとやかな女を選びなさい。うん。それがいい。

とか何とか思ってるうちに何だかケバ子ハデ美が物を投げつけ合い始めた。ふでばこ、下敷き、消しゴム、鉛筆(高校生にもなって鉛筆ご愛用?)、教科書、イス、机、クラスメイト、鉛筆削り・・・などなどが飛び交っている。
まさしく戦場と言うのに相応しい。

スティックのりが後方から飛んできた。私の頬を掠めた。

シャーペンが飛んできた。背中に当たった。先が尖っているから意外に痛い。ちょっとムカ。

化粧ポーチが飛んできた。多分ケバ子のだな。中身がすごい。あいつの顔はこれで作られてるんだ。なるほどね。

国語辞典が飛んできた。入学当初、半ば無理やり業者に買わされた物だ。はっきりいって使い道は皆無だけど、枕代わりにはなる便利な辞書。そして当たると結構痛い・・・もとい、かなり痛い国語辞書。私の後頭部直撃。ゴツッっていったよ。正直言ってね、私は結構心の広い人間だよ?こんな学級崩壊しまくり破壊されまくりの状況にこれだけ冷静に耐えて、スティックのりとシャーペンと化粧ポーチはでは何も言わずにいてあげたんだから・・・けど、


「国語辞典は痛いんじゃ―!!!!」


気づいたらそう叫んで国語辞典を後ろに向かって投げ返していました。


はい、そしてその当たると痛い辞書はケバ子でもハデ美でもなく、



オレ様男『相川由貴』のおでこに直撃。



何て言うのか、血の気が引くってのはこういう感覚のことを言うのね。

睨まれるというのはこういうことを言うのね。


・・・何だか教室中が静かだわ。

皆が私を見ています。

オレ様野郎が・・・近づいてくるのは気のせいでしょうか??

割と紳士的な笑顔でいらっしゃります。それが不気味なんですけど。

とか何とか思ってるうちにちゃっかりしっかりオレ様野郎は私の目の前。にんまり笑顔。

「え、えと・・・ごめんなさい。」

とりあえず先手必勝で謝ってはみるものの、反応ゼロ。

何故か私の顔をジロジロ見てます。やめてくれ。至近距離はやめてくれ。

「ふーん。」

そう言うと、オレ様野郎は素早く私の眼鏡を取り上げた。

「あっ!」

私は両手を動かしてそれを取り返そうとするけど視界がぼやけてなかなか掴めない。オレ様野郎の表情も読み取れない。

お願い返して私の魂!!

そう叫ぶと同時に、またオレ様野郎の顔が近づいてきた。今度は眼鏡が無くてもハッキリ顔が分かるくらいの超至近距離。



「よし、お前今日からオレの女な。」









一秒置いて、






クラス中から驚愕の声が上がった。









私は開いた口が塞がらず、唖然としていた。

何を言ったんだこの男は。新手のジョークか?ドッキリか?

ってか・・・マジ?

・・・もしかしてブス専門の方ですか?

あ、眼鏡フェチ?

それとも三つ編みが好きだとか?


「ちょっと、ユキ君。冗談はやめてよねぇ〜。なんでよりによって楓子なのよぉ。」

そうそう、たまにはまともなこと言うじゃないかハデ美。っていうか、あんた私の名前知ってたんだね。新事実だよ。

「そうだって、さすがにそれは笑えないよ。」

ケバ子、ナイスカバー。

「え?オレ本気だけど?」

はい?

「こんな女めったにいないじゃん。」

「でもそんな地味な子はユキ君には合わないよぉ。」

「そうだって、地味過ぎ。無理。駄目。」

ちょっぴり傷付くよね、そこまで言われると。

「いや、大丈夫だって。こいつ眼鏡取って髪型変えれば結構いける。」

そう言ってオレ様野郎は私の髪も勝手にほどいてグーッシャグシャ。

「・・・。」

「・・・。」


私を見た2人が黙る。


待って、何とか言いなさいよ。「ブス」とか「地味」とか言ってみなさいよ!!あんたたちの性格なら真っ先に出てくる言葉でしょうが!!


私ってもしかして眼鏡取ると・・・っていう少女漫画やなんかでよくある王道ってやつなわけ!?冗談でしょ!!そんなのいりません!!代わりに平和を下さい!!プリーズ、ピース!!愛はいらないから平和下さい。

「よし、じゃあお前・・・楓子だっけ?オレの女に決定。それからこれからその髪型と眼鏡は無しな。」

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

ようやく声を出すことに成功。

「なんだ?」


「無理!!嫌!!絶対嫌!!」


お腹の底からそう叫んだ。

「何が嫌なんだ?」

それはそれは怪訝そうにオレ様野郎は私の顔を覗きこんだ。私は思いっきり後退って、距離を3メートルに保った。

「何って・・・全てよ、す・べ・て!!!」

そう言い放って私は素早く教室を出ようと走り出した。眼鏡がないから視界がぼやけてるけど、その辺は第6感でカバー。シックスセンス万歳。

「おい。」

オレ様野郎がそう一声すると、他のクラスメイトが教室の出入り口を完全に塞いだ。・・・忘れてた。こいつらみんなオレ様男の言いなりなんだ・・・。何もここまで忠実じゃなくったっていいじゃん!!

「俺の言うことは絶対。それとも何?あんた退学にでもなりたいわけ?」

ニヤニヤと、意地の悪い笑みが近づいてくる。冗談じゃない。親の権力使ってんじゃないわよ!!退学も嫌だけどあんたの彼女になるなんてもっと嫌!!・・・なんて口に出したらホントに退学にされそう・・・。だからってこいつの彼女なんて真っ平なんだけど。

「俺の何が嫌なわけ?」

いつの間にかお互いの距離はさっきと同じくらいに接近。

「何って・・・。言って良い訳?」

「言って。」

「・・・授業をすぐにつぶすこと。女遊びが激しいとこ。あと、ろくに授業も受けてないのに学年トップなとこ。」

とりあえず、全部言いきるのは不可能だから嫌いな所ベスト3まであげてみました。

「ん、分かった。じゃあ、授業つぶすのはやめる。他の女には手を出さない。勉強は・・・元がいいから直しようがないけど、もしあれなら俺が楓子に教えてやろうか?それなら良いだろ?これで晴れてお前は俺のもの。」

オレ様野郎が満足げに頷いた。・・・まさかこんなにあっさりとそう言われるとは思わなかった。もう一個くらい言えばよかった。

何だかよく分からんが、周りから拍手が起こっている。「めでたいめでたい」とか言っている奴もいる。いや、めでたくないから。むしろ私は・・・・・・いや、待てよ?これは私にとって都合の良い展開では?授業もまともになるし、勉強とか教えてもらえるし(オレ様野郎に教わるのは抵抗があるけど)、それにオレ様野郎の彼女ってことはクラス内、ううん、この学校内での地位はかなりのものになるんじゃない?結構色々と有利なことが増えるかも・・・。うん、オレ様野郎は嫌いだけど、メリットはなかなかのものよね。悪い話ではないかも。

「分かったか?」

オレ様野郎が再び顔を覗きこんできた。

「分かった。」

私はとりあえず微笑んでみせた。



「「「おおおおおおおーーーー!!!」」」



クラス中から声が上がる。この際、多少のことは我慢しよう。


「ねえ、そろそろ眼鏡返してくれない?」

目の周りがスース―して落ち着かないんだよ。

「ああ、これ?言っただろ、俺の女になるからには眼鏡と三つ編みは禁止。」




・・・。

・・・。




そう言って、オレ様野郎、相川由貴は私の眼鏡を・・・。



私の眼鏡を・・・。








踏み潰しやがった。






「なにすんのぉーーーーー!!!!???」





バイバイ。私の魂。眼鏡ちゃん。

今まで私の視力を補ってくれてありがとう。

体育でフレームが曲がってしまったことも、ラーメンを食べて湯気で視界が真っ白になったこともあったけど、私、この恩は一生忘れない。

そして




さようなら。平穏な生活。






この大馬鹿野郎の彼女になると決めてから30秒。


私は心底自分の選択を後悔した。







FIN



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