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□地味子さんと危険なハロウィン




例えばそう、日本の悪いところといえば、宗教がごちゃ混ぜになっていて、仏教だとしても正月には神社に赴き、クリスマスにはキリストの生誕を祝い、そして時にはハロウィンなんかも遣って退けてしまうところだ。

私は、無宗教だから、そんなものには興味はないし、するつもりもまったくない。
けど、私の意志なんてこの目の前の男にも、その父親にも、それこそまったく関係ないんらしい。

「はぁ」

私はその男に聞こえるくらいの大きな声でため息をついて見せた。当然、聞こえたはずだ。けれど相川由貴はそ知らぬ顔で私のため息などまるで無視。分かっちゃいるけどね。

「何でこの学校ってこんな馬鹿げてるの?」

「俺に聞くな」

まあ、いくら理事長の息子だからって責めるのは可哀想だけどさ。それでも、この込み上げてくる苛立ちを誰かにぶつけなきゃ気が済まないのよ。

教室の黒板。いち早く学校に着いた私と、遅刻すれすれ(むしろ大遅刻)の相川由貴。それから、クラスメイト。その目の前にあるのは、紛れもなく黒板。右から見ても左から見ても逆立ちしてみたって黒板だ。そう、問題はそこに書かれている文字。

『ハロウィンパーティー開催のお知らせ。10月31日にハロウィンパーティーを行います。場所は体育館。時間は1時間目の開始時刻と同様。生徒は全員強制参加。なお、参加の際には必ず仮装をしてくること』

・・・三流小説だってこんなベタな企画は採用しない。さすがの相川由貴も唖然としているし、クラスの皆も口を開けっぱなしにしている。

ピンポンパンポン。

校内放送だ。ベタな放送音。普段ならば誰も気にせずに右耳から左耳へとスルーされる校内放送だったけど、今日は生憎、全校生徒がそれぞれの教室の黒板の落書きより立ちの悪いモノに見惚れちゃっていたから仕方がない。そのお陰で学校中が静まり返っていて、興味のない放送だってばっちり聞こえてきてしまったんだもん。
けれど、全校生徒がこの校内放送に耳を傾けたことを後悔するのはそう遅くはなかった。

「あーあーあー。ただいまマイクのテスト中。ゴホンッ。えー。おはようございます。皆様、お元気ですか?朝のめざまし放送の時間です」

いや、初めて聞きましたからそんなもん。っていうか、朝の挨拶はお元気ですかじゃなくて、おはようございますでしょうが。

「各教室の黒板はごらんになったでしょうか。そうです。ハロウィンパーティーです。皆に勉強だけでなく、様々なものを学んでもらおうという校長先生の計らいです。」

はっはっは。校長の娯楽としか考えられません。

「もちろん、ただのパーティーではありません!!」

いや、むしろ普通のパーティーであって欲しいんですけど。

「王様的ハロウィンパーティーです!!」

・・・普通のパーチーであって欲しいんですけど。

「さてさて、ルールを説明します!!全校生徒には、左胸にハート型のシールを貼っていただきます。そして、全員に水鉄砲が一つずつ手渡されます。ちなみに、この水鉄砲の中身はトマトジュースです」

なんで。っていうか、どこに「王様」な要素があるっていうのさ。

「慌てない慌てない。説明は最後まで聞いてくださいね」

口に出したわけではないのに、的確に突っ込んでくるところが恐ろしい。それはクラスメイトも全員同じことを考えていたらしく、軽く身震いをしている。

「それで。皆さん大体予想は付いたと思いますが、その水鉄砲で打ち合いをします。ハートに命中されたら負け。勝者には、敗者に何でも3つまで命令できるという王様的特権が与えられます!!ちなみに、このパーティーには近隣の高校の海外留学生が数名参加します。では、細かいことは当日に。放送のお兄さんでした」

ブツッ。

言いたいことだけ言い終えて、放送は終了した。質問したいことは山ほどあった。けれど、その放送のお兄さんとやらがいったいどんな人物で、本名は何なのかってことも分からないから質問のしようがない。校長に聞きに行くのが一番手っ取り早いんだけど、行きたくない。断じて。

「あなたのお父さんの頭の中、是非とも見て見たいんですけど」

「知り合いに脳外科医がいるけど、頼むか?」

・・・試してみる価値はあると思う。









「・・・」

ハロウィンパーティーは残念なことに、滞りなく行われている。私の右方向には包帯人間。左にはフランケンシュタイン。正面にはりんごを持った魔女。背後には狼男。

問題です。あの相川由貴はいったい何に変装しているでしょう。

正解は

「きゃぁ!!!ヴァンパイアさまよ!!」

突如、黄色い悲鳴があちこちから上がる。ああ、ヴァンパイアさまって何ですか。いくらなんでもヴァンパイアに「様」を付けるのはおかしいと思う。いくら、ヴァンパイアの正体がなぜか全校生徒が憧れて崇拝しているあの相川由貴だったとしても、もうちょっとましな呼び方があるでしょうが。・・・ヴァンパイア伯爵、とか。

「やぁん!由貴くんったら、似合うぅ〜!」

聞きなれた甘ったるい声が会場に響いた。その声に超音波でも混ざっているのか、数十名の男子生徒が顔を真っ赤にして湯気を噴きながらフラフラとその場に倒れこんでいった。
他の男を褒めている女の声で卒倒できるあなたたちがある意味うらやましい。きっと人生幸せでしょうね。当の声の主は、そんな倒れた人達に目もくれず、相川由貴に駆け寄った。クルクルパーマが走るたびに揺れる揺れる。邪魔そうで仕方がない。

「きゃぁ!!やだ、由貴くんマジ似合ってる!!」

柄は悪いが、同じく媚びた声色で茶髪の女は相川由貴に駆け寄った。そのグラビアアイドル顔負けの胸が、走るたびに揺れる揺れる。
それを見た男子生徒が鼻から血を噴いた。やめてくれ。ただでさえ変装仮装のオンパレードで怪物とかオカルト的な要素満載のこの会場。血なんか撒き散らされたら冗談に見えない。リアルに怖いから。

「ちょっと、アイコちゃぁん?私が先に声かけたんだから、由貴君の腕は私のものよぉ?」

ハデ美が相川由貴の右腕に自分の腕を絡めた。ケバ子の眉がピクッと反応した。

「は?何言ってんの?あんたさぁ、そろそろそのおバカな頭、どうにかした方がいいんじゃない?」

そう言って、ケバ子はハデ美の肩をトンッと押して、相川由貴の右腕を奪取した。・・・っていうかさ、どちらかが左腕にすればいいんじゃないの?右腕にこだわらないでさ。まあ、もし右腕フェチならそれは仕方ないけど。
相川由貴はそんな二人には構わず、キョロキョロと周囲を見渡していた。周りの女子生徒、果てには女教師までが、相川由貴と目が合うことを期待して頬を染めていた。

ヤバイ。

あれは、もしや・・・私を探していらっしゃるんでしょうか?
私は心の中で念じた。

『見つけないで見つからないで見つけるんじゃない』

けれど、見つからない自信はある。ここから相川由貴までは随分と離れているし、なんて言ったって、今日の私は――ジャック・オー・ランタン。
つまりはかぼちゃの被り物。頭にかぼちゃを被っているわけだから、もちろん素顔がばれる心配はない。完璧な計画。

そう、私は決めたんだ。今回のハロウィンパーティーでは徹底的に傍観者に回ろう、と。そうすればあの騒がしい集団のとばっちりも食わないし、ノープロブレムです。こんな絶好のハプニング日和の今日だからこそ、地味な私に戻りたい。

今日はこのかぼちゃ人間の姿で、パーティーの進行を暖かく見守ります。

「さぁ!!それでは皆さま、お待ちかねの王様的バトルロワイヤルの開始です!!」

いつの間にか、タイトルが血生臭くなってる。

「司会はお馴染み、わたくし『司会のお兄ちゃん』が務めさせていただきます!」

司会のお兄ちゃんに盛大な拍手が贈られた。

「えー。まず、このバトルロワイヤルの優勝者は、一人ではありません。ただいまこの会場にはドラキュラ、包帯人間、魔女、狼男など、さまざまなモンスターが勢ぞろいしております。そこで、今回はそのキャラクターごとに分かれて優勝を争っていただきます。つまり、ドラキュラならば、ドラキュラの中から一人、魔女なら魔女の中から一人、優勝者が現れるわけです!!ご理解いただけましたか?」

ザワザワと会場は騒ぎだした。皆、自分と同じキャラクターがどれだけいて、誰がそうなのかをあからさまに確認し始めている。

「では、これからキャラクターごとにグループ分けします。係りの者が指示しますので、それに従って分かれてください」

こういうときに、この学校の生徒は優秀なもので、大人しく突如現れた黒スーツ軍団の指示に従っている。まあ、逆らうのが怖いというのもあるかもしれないが。黒スーツ軍団は、恐らく相川家のSPか何かだろう。こんなくだらない企画の手伝いまでさせられるなんて気の毒だね。

段々と、キャラクターごとのグループ分けができてきた。
ふと、気づく。
私はいったいどのグループなの?

「・・・それは、ジャック・オー・ランタンですか?」

黒スーツその@が話しかけてきた。私はコクリと頷いた。黒スーツそのAがやって来て、その@に何か耳打ちした。その@がそのAの言葉に頷いた。

「おめでとうございます。ジャック・オー・ランタンはあなた様しかいませんので、あなた様は優勝が決定しました」

・・・は?

「他のグループの結果が決まるまでしばらくお待ちください」

そう言うと、その@、そのAは去っていった。なんてこった。優勝しちゃった。

「ではみなさん。ハートシールとトマトジュース入りの水鉄砲は配られましたか?」

いつの間にか、他の生徒たち全員にバトルロワイヤルグッズが配られていた。私には、渡されもしていない。
・・・それは、さ。関わりたくない、目立ちたくないって思ってたけどさ。ここまで完全に参加できないのってなんか寂しいんだけど・・・。

「では、健闘を祈ります!レディーゴー!!」

部屋の隅っこに縮こまりながら、私は皆が走り出すのを見届けた。







「さー始まりました!!王様的バトルロワイヤル!!王座に座るのは誰だぁ!?」

体育館の舞台の特設スクリーンには放送部が必死に捕らえた映像が流れている。全身をトマトジュースだらけにしながら戦う生徒たち。
・・・ジャックくんの格好で本当に良かった。参加できなくて本当に良かった。

「おっと、なんということでしょう!!みなさん、ご覧ください!死体の山です。しかも全て魔女です!!」

スクリーンに映っているのは校舎を繋ぐ一階の渡り廊下。周辺に点々と魔女の姿をしている生徒たちが転がっている。ゴロゴロ転がっている。胸のハートマークは全て真っ赤に染まっている。惨い。むごい。ムゴイ。酷過ぎる。なんの恨みがあってか、トマトジュースは胸だけでなく、顔にも何発も打ち込まれている。
・・・可哀想に。
もとは可愛かったかもしれない女生徒たちの顔は、もう見るも無残に真っ赤っか。特に、元が美人の生徒は顔を集中的に狙われている。ほとんどの女生徒は魔女だったから、ほとんど全滅と言っていいかもしれない。一体何人生き残っているんだろう。

「この校舎の奥で何やらはげしい音が聞こえてきます!!行ってみましょう!!」

ズンズンと勇敢に司会のおにいちゃんwithカメラ&音声&照明さんは奥へ進んでいった。ゲームのラスボスあたりで流れるようなBGMが流れている。なんと準備の良い。

「っそろそろ観念しなさいよ!!」

「アイコちゃんこそぉ。私に勝たせてくれないのぉ??」

聞きなれた声をマイクが拾い、次にその声の主が映し出された。案の定、あの二人だ。見事に魔女に変身した二人は、異様なオーラを放っている。BGMとぴったりあっている。ラスボスオーラ。

ケバ子の方は艶やか魔女。ちょっと長すぎるんじゃないかなぁと思うような鋭い爪がギランと光った。唇はテカテカと光っている。山根君が見たら「チキンでも食べたんですか?」とかボケてくれそう。それはね、グロスっていうんだよ山根君・・・って、実際に言ったわけじゃないんだけどさ。

ハデ美の方はやっぱりぶりっ子魔女。日曜日の朝とかにやっている子供向けアニメの主人公とかに居そう。ステッキを振って世界を救う・・・ハデ美に救われるのはいまいち納得はいかないけど。どちらかというと世界を破滅に導いてくれちゃいそうだ。魔女にしては短い、短すぎるスカートがチラチラめくれている。男子生徒が見たら声を上げて喜ぶだろう。ハデ美ごときに引っかかるような阿呆な生徒しかいないんだよ、この学校は。

「もうっ!アイコちゃんの分からず屋ぁ!!」

プシュッ、とトマトジュースがハデ美の水鉄砲から発射された。サッと素早くケバ子が避ける。トマトジュースは廊下の壁にベシャッと張り付いた。「チッ」とハデ美が舌打ちした。ハデ美はそんな柄の悪いキャラだったろうか?

「うるっさいわね!!勝つのはあたしって決まってるの!!」

さらにケバ子がハデ美目掛けてトマトジュースを打った。しかし、それもハデ美のクルクルパーマを掠めただけで、最終的には窓ガラスに付いただけだった。しかし、その瞬間ハデ美の表情が一変する。そして辺り一体がツンドラ地帯(分からない人は辞書を引きましょう)のように寒くなった・・・ように見えた。スクリーンでは。

「アイコちゃん?私の髪を汚したわね?」

怒り狂ったハデ美の手にある水鉄砲からブシュッとトマトジュースが発射され、今度はケバ子の右頬に命中した。ケバ子の表情も瞬時に険しくなった。・・・もう、ツンドラなんて言ってられない。北極だ。

「・・・あたしの化粧を無駄にする気?」

一斉に、両者がトマトジュースを連打し始めた。廊下がどんどん赤く染まっていく。これ以上ハロウィンムードはいらないんだけどな・・・。

「くそっ、弾切れか」

いや弾じゃなくてトマトジュースだから。ただの。ケバ子は渡り廊下へ走って行き、転がっている魔女達の手から水鉄砲を頂戴した。ハデ美もトマトジュース切れらしく、同じように新たな水鉄砲を手に入れた。
これ以上撮影したら自分達の身も危険だと察知し、撮影スタッフたちは別の場所を撮影しようとその場を離れた。ありがたい。もうあの二人のショットは十分だ。

次にスクリーンに現れたのは教室の前の長い廊下。しかも、状況はさきほどと一緒だ。廊下を3歩歩くごとに死体(のように見えるもの)が転がっている。さっきの光景と違うのはその死体は、モンスターの種類が魔女から狼男、透明人間からフランケンシュタインと、様々であること、そして胸のハートマークについている血が青いこと。
・・・いつからこの学校は青い血の通った宇宙人の住処になったんだろうか。

「・・・無差別殺人ですね」

物騒だな、オイ。

「これは・・・」

司会のお兄ちゃんが真剣にリポートする中、私はハデケバコンビの戦闘だけで色んな意味で胸がいっぱいになり、その場を離れることにした。まあ、簡単にいうとボーっとしていることに飽きた。
さっさと体育館を後にした。ジャックオーランタンは、正体はバレないけれど、目立ってしまうのが難点だ。おまけに、カボチャのかぶり物は重くて頭がグラグラする。絶対に明日は肩こりに悩まされるだろう。だからといって、それを外すのは自殺行為だし、相川由貴に捕まるくらいなら私は肩こりを選ぶ。

「リリー!!リリー!!」

ふと、前方に金色のキラキラした人物を発見した。眩しすぎて、その実態がよく見えない。私はできるかぎり目を擦って、もう一度そのキラキラへ目をやった。

「リリー!!」

キラキラの正体は金髪ふわふわヘアーの綺麗なお兄さんだった。ひたすら「リリー」を連呼しながら辺りをキョロキョロと見渡している。すっごい美人だなぁ、男の人なのに、と私が見惚れていると、そのキラキラ美少年がこちらに気づいた。

「エクスキューズミー?」

・・・パードゥン?

いや、英語はやめてください。ここは日本なんで。宇宙語で話されるよりはましですが、私は母国語を愛しちゃってるし、正直英語の成績は悪くないけど、ネイティブに通用するかっていったら無理なので。テスト時は常に教科書丸覚えですから。

「スミマセン。」

私の願いが通じたのか、そのキラキラちゃんは片言の日本語で話しかけてきた。

「リリー見マセンデシタカ?」

「ごめんなさい。それらしきキラキラ星人は見てません。」

「ソウデスカ・・・。」

キラキラさんは一瞬にして落ち込んでしまった。キラキラオーラが無くなり、フワフワのヘアーもどこか純粋な直毛のようにストレート化し、青い瞳もちょっぴりくすんでしまった。このままではキラキラさんの絶滅の危機だ。私はなんだか母性本能をくすぐられてしまった。キラキラさんを助けなければ!!

「・・・よければリリー?を探すのを手伝いましょうか?」

キラキラちゃんの煌きオーラが復活した。

「オウ、ナンテ親切ですか!?」

やや疑問系気味に、キラキラさんは綺麗な顔で自信満々に言った。

「リリーハ青い瞳ニ、金色の髪デス。10歳カモシレナイデス。カワイイデスカ。水鉄砲ヲ持ッテマスデス。生意気デスカ?デモキュートカモデス」

なんだか、日本語がおかしすぎてどこを突っ込んでいいのか分からぬまま、私はリリー探しを手伝うことになった・・・らしい。





***




リリーはどこだ。どこにいる。探し続けて数十分。一向にキラキラ星人その2は見つからない。

「宇宙へ帰ったか・・・」

いや、そう判断してはいけない。なんたってお兄ちゃんがまだ地球にいるんだから、10歳の女の子が一人で帰ったりはしないだろう。リリーちゃんは10歳金髪の美少女だ。もし見かけたらすぐに分かるに違いない。
ふと、足元の土に青い液体が付着していることを発見した。それも、一つや二つじゃない。目線を上げていくと、それは道なりに点々と続いていることが分かった。ゴクリと息を呑む。怖さ3%、好奇心50%、残りはただ単にこの道を使いたいだけ。

「・・・なんてことでしょう、まったく」

胸のハートマークから青い血を流している生徒たちが均等な距離ごとに倒れていた。さっき、司会のお兄ちゃんがリポートしていたやつと同じだろう。ホントに、悪趣味だ。

「きゃぁー!!」

前方から悲鳴が聞こえ、でも私は慌てることなくそこに向かった。そこにいたのは魔女が1人、妖精1人、狼男が1人、包帯人間1人。そしてキラキラした女の子が1人。
パタリ、と魔女が倒れた。きっとこれでハデケバコンビが倒したのも含め、魔女は全滅だろう。魔女狩り終了。

「さ、次は誰が撃たれたい?」

キラキラした女の子の口から、その見た目には相応しくないセリフが発せられた。そのギャップにやや悲しくなった。キラキラ子ちゃんは明らかにキラキラ星人その2だ。金髪に青い瞳。薄いピンクのヒラヒラな服。ふわふわパーマがかった髪。ハデ美&ケバ子に負けないその存在感!!でも、キラキラ星人その1より、日本語はうまい。

「ちょっと、オドオドしてないでさっさと次に撃たれる人、決めてくれない?」

ものすごくキツイ口調で、おそらく私が探しているリリーちゃんであるだろう人物がそう言い放った。言われた方のモンスターたちは、互いに顔を見合って、どう対処していいのか決めかねている・・・というか、たかが10歳の子供が何言ってんだって顔をしてる。

「ちょっとそこの狼。『こんなガキが何偉そうにしてんだよ』って顔をしてるわね」

言い当てられて、狼はちょっと動揺していた。私も自分のことを言い当てられたような気がしてちょっと焦った。10歳の子供相手にビクビクする狼は、三匹の子豚たちにやっつけられる童話の中の狼よりもさらに哀れに思える。一ひねりで退治出来そう。

「あんたなんか、一ひねりで殺れるわ」

モンスターたちの顔が一瞬にして青ざめた。リリーには有無を言わせぬ迫力があった。無駄に怖い。

バシュッバシュッバシュッ。

水鉄砲から青い液体が三回発射され、私とリリー以外の人物は全員倒れた。真っ青で。

「ふん、せっかく順番を選ばせてあげようと思ったのに。・・・遅いんだもん待ちくたびれたわ」

髪の毛をふさぁっとなびかせて、リリーは踵を返し、倒れたモンスターたちに背を向けた。その瞬間。

「あ」

ばっちり私とリリーの目が合ってしまった。リリーがにやっと笑った。嫌な予感がゾクゾクっと全身を駆け巡った。ギャップというものは恐ろしい。見た目があんなに天使ちっくなのに、あの悪魔のような笑顔。その差が余計と恐怖を煽るのだから。
おもむろに、リリーが水鉄砲を構えた。私は身構えた。
けれど、そこでリリーの動きが止まった。

「・・・ハートマークのシールがない」

不機嫌気味に発せられたその言葉に、私は自分の胸を確かめた。・・・私はとっくに優勝しちゃってるからシールをもらってない。キラキラ星人2のリリーは10歳なのにちっとも可愛らしさの感じられない顔で、私を見た。

「まあいいや」

何が良いのか私にはさっぱりですが、とりあえずリリーの水鉄砲がもう一度私に向けられたのは確かだ。冗談じゃない。制服が真っ青になったら明日から往来を歩けない。今の私は頭はジャックだけど、体はいつものスタイルなんだよ。制服というものは便利な物で、平日はこれ一つでコーディネート要らず。遠足も修学旅行もこれさえあれば切り抜けられるし、例え私服のセンスが悪くとも、バレる心配はナッシング。着ているだけで世の中のちょっとお馬鹿さんな男性陣は親切になるし、例え男っぽい人物でもちゃんと女の子に見えるし、ほかにもあれとかあれとか・・・ってことでとっても便利なんだよ、制服は。

それが真っ青になったらもう私は平日を生きていけないよ。そう思ったら、私の身体は勝手に動いていた。もう、あの大切なメガネを割られた時のような思いはしたくない。私の地味な生活から(今はそうでもないけど)制服まで奪われたくない。その一心で…私はカボチャの頭をすばやく脱ぎ、リリー(たぶん)にかぶせた。

「あぶっ!!」

リリーがかわいげのない声を出した。リリーの視界はかぼちゃでふさがれている。あれだね、猛獣も視界を覆われると大人しくなるとか言うけど、それと一緒だね。

「なにするのよ!?」

リリーは怒っている。10歳の子供にはこのジャックオーランタンは大きすぎるらしく、肩まではまっている。もちろん目の位置はずれているので前は見えない。チャンスだ。私は危険極まりない青い水の入った水鉄砲をここぞとばかりに奪い取った。10歳児から。

「Oh!!なんてこと!!10歳のいたいけな子供から遊び道具を奪うなんて!!」

リリーがあわわわわ、と慌てる。確かに、大人気ない気もする。が、しかし。

「自分の平和が第一だから」

そう言い放つと、顔はほとんど見えないがリリーが黙り込んだ。

「それに、子供らしくない相手に大人ぶってもねぇ。っていうか、私もまだ子供だし」

リリーの反応がない。ごめんね。このくらいの精神じゃないとこの学校では生き残れないわけよ。っていうか、その格好・・・笑える。ヒラヒラのフランス人形みたいなお洋服に、頭はカボチャ。ぷぷっ!!

「ブッラボーーー!!」

突如背後から歓喜の声が。っていうか、キラキラ星人その1だ。

「あなたステキねーリリーに勝つスゴイねー」

キラキラ星人はなにやら初めて会った時よりキラキラしていた。妹見つかったよ。よかったね。私はこんな怖い10歳児にはできれば会いたくなかったけど。兄の方は本当に癒しキャラだと思う。いいなぁ、相川由貴もこれくらい優しそうならまだちょっとは1ミリグラムか1ナノメートルくらいは好きになれるのに。

「ホントにほんとうーにありがとう!リリー見つけるだけじゃなく遊んでくれるなんてあなたステキなレディだね」

キラキラ兄は一度ぎゅっとハグすると、すっと離れ、私の手を握って全身をキラキラさせた。

「キラキラさんの役に立てたならうれしいです」

ふわっとほほ笑むキラキラ兄につられて、私もへラッと笑った。

「ほぅ。楽しそうだな」

ぞくぞくぞく。全身がチキン肌になる。あ、鳥肌ね。このネタ2度目だけど。そうっと声の方を向こうかと思ったけど、誰が立っているのかはこのおぞましい気配で分かったから、まず、その気配と逆方向を向いて落ち着いた。落ち着け私。今日の私はカボチャの頭が守ってくれているんだから。そう、かぼちゃの頭が・・・?あれ、目の前にいるのは何だっけ?そうそう、さっき私がかぶせたんだよねー。今はリリーがカボチャなんだよねぇー。あはは。じゃあ、なんだ。今の私はただの米沢楓子かぁ。・・・やばっ!!!!
無視意識で全力疾走。振り向くな私。泣くな私。とにかく逃げろ!!

「逃げられるわけないだろう?このオレから」

がっしぃぃぃぃ!!っと、腕がつかまれた。そのままクルッと回れ右させられて、今度はダダンッと校舎の壁に叩きつけられて・・・痛い。全力疾走に軽々と追いつかれたのも悔しい。そういえば、この男、以前の鬼ごっこで陸上部のエース芦早志(あしはやし)くんにも追いついてた気がする。なんでもできる男ってちょっと厭味だ。

「今日はご丁寧にあんなカボチャかぶって。見つかったら全力逃走とはね。」

笑顔が怖いです。顔が近いです。からだ全体近すぎです。私の背後は壁しかないので考慮してください。

「オレに何も言うことはないのか?」

あんまりにも近すぎるので思いっきり顔をそらしてみた。そしたらなんだか相川由貴の黒いオーラの威力が増した。とりあえず、謝るか。そうしよう。ここまできたら逆らっちゃだめだ。命だけは死守しなきゃ。

「ごめ、ごめごめごめごめ・・・ごめな、ごめんなさい」

「許さない」

ひぃぇええええええええええええ!!どうしてこんなにご立腹!?確かに逃げたのは悪かったけどそんなほんの数滴でもいいから慈悲が欲しいんですけど!!

「ご、ごめんさない」

噛んだ。

「ごめんなさい」

言えた。

「さっきの外人は誰だ?」

「キラキラ星人です。妹探しを手伝ってました」

「妹探してなんで抱き合うんだよ」

「さぁ?海外流のありがとうみたいなものじゃないですかね」

・・・もしかしてもしかするとまたもやヤキモチってやつですか?

「・・・くそっ!」

「!?」

んんーーー。んー。あれま。息できない。強い力で壁に押し付けられた状態で、頭真っ白になった。でも、以前よりは冷静だ。私、成長したな。ひどく辛そうな顔をした相川由貴の顔が極限まで近付いていた。温かい感触。私は目の前の男にいつものごとくチューされてる。っていうか、早く放してくれませんか。息、息できない。死んじゃう。

「鼻で息しろ、バカ」

一瞬お互いの唇が離れてそう言われた。そうか、鼻で息するのか。って思ってたらまた唇を塞がれた。いや、なんだこのムードのかけらもないキスシーン。そう思ったけど、なんだか相川由貴のどことな〜く切ない表情が私のツッコミ能力を奪っていった。目、閉じて、バカ男のキスを素直に受け入れた。そしたらキスがさらに激しくなって、頭がクラクラして、さっき教えてもらった鼻で息する作戦もスッカリ忘れ、ちょっと苦しくなった。

「オレから、逃げないでくれ」

ようやく離された唇から出てきた言葉はこの男には全然不似合いだけど、なんだか私は悪いことをした気分になった。

「・・・ごめんなさい」

なんだか口が勝手に謝った。口が誤って謝った。っていうか、酸欠で逆らう気力も無くなった。そしたら由貴が私の腕を掴んでいた手をゆるめた。

「帰るぞ」

え!?まだハロウィンパーティー中だけど。

「どうせこんな行事サボりたいと思ってただろう?」

「でも全員強制参加じゃ・・・」

「あのアホ理事の弱点なら知っている」

脅すんですか。なんで初めからそうしなかったんですか。

「そんな手段があるなら初めからサボればよかったのに」

「お前を探すのに時間がかかったんだよ」

ふぅん。そっか。そうだね。まぁ、サボるんなら一人より二人だよね。うん。
かぼちゃ、かぶらない方が見つけやすかったかな。





翌日。

「リックです。よろしくおねがします」

クラスに突然の転校生一人。よく見ると、よく見なくてもキラキラ星人(兄)。っていうか、リックっていう名前だったのか。クラスの女子生徒がざわつく。そして。私の隣の席の男の眉間にシワが寄った。ふかーいシワが。

「Oh!!フーコ!!あなたがここにいる、だから私ここに来た!!妹が優勝!一人勝ち!!他の魔女も狼も全部倒したから誰にでも命令できた。でもリリーは僕に勝者の特権を譲ってくれた!だからそれを使ってこのクラスの男子生徒ひとりと僕がチェンジ!!」 

初め、理解不能だったが、よく考えてみた。そして辺りを見回す。確かに誰かが足りない気がする。なるほど、交換したのね。生徒を。山根君はちゃんといた。ちょっとホッとした。だって、山根君なら真っ先に交換されそうで心配だった。いなくなったら困るし。山根くん見てるとなんだか自分はまだマシだって安心できるし。

「あなたに会うためだけに来ました。フーコ、僕とお友達になりましょう!!」

・・・うわぁ。隣からのオーラが痛い。ちょっとリック、黙ってて。あ、でも日本語はなぜかすっごく上達したね。1日しか経ってないのに。でも、お願いだから相川由貴の逆鱗にだけは触れないで。
ハデ美、ケバ子、どうしてこういう時に限って居ないの。昨日の乱闘騒ぎで二人とも羽目を外しすぎて、相打ちで全治一か月。しかも同じ病院の同じ病室に入れられたって聞いて、あ〜いい気味って思ったこと謝るから。なんとか相川由貴の機嫌を直してもらえないだろうか。帰ってきて。
和一君でもいい。この際、山根君でもいい。
助けて。
相川由貴とリックの目線の先で火花が散っている。

「あなた、昨日の人ですねー?よろしくー。でも邪魔はしないで下さい」

リックの笑顔がキラキラじゃない。

「そのセリフそっくりそのまま返す」

相川由貴も笑顔だ。怖い笑顔だ。
これ、私はどうしたらいいのですかね。
これからの生活に不安がよぎった。

・・・けど、よく考えたらもともと不安だらけだった。






FIN



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