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□第7話



「キルアさんってそんなに忙しいんですか?」

キルアが去った後、バルが別の馬車を用意してくれた。二人はそれに乗って、帰路を進んでいる。
無事に透に飼われることになった龍の子の「リュウ」は透の膝の上で気持ちよさそうに眠っている。
馬車に揺られても、ちっとも起きる気配はない。スースーと寝息までも立てている。

「キルア様は寝る暇もないくらいよく働く方です。俺・・・じゃない、わたしたちが1の仕事をこなす間にキルア様は10の仕事をこなすと言われるほどです。」

バルが誇らしげにそう言った。

「『俺』でいいですよ?私相手にそんな丁寧に接してもらわなくても・・・。」

「キルア様にそう言われていますから。」

「いや、どっちかというと普通にしてもらわないと、その、なんだか違和感が・・・。」

「では、そうさせてもらいます。」

バルはにっこりと笑った。


キルアや、他の人魚と違って、髪も目も黒いから、時折、透はバルに親しみを感じた。どこかトシ兄ちゃんにも似てる気がする。


「でも、キルアさんそんなに忙しいなら毎日来なくてもいいのに・・・。」

「どこにですか?」

「ああ、私が住ませてもらっている所です。えっと、これから行く所ですよね?」

「これからって・・・シクレ宮のことですか?」

「うーん。あの場所を何て言うのか知らないんです。」

「シクレ宮は、書庫と泉のある小さな宮です。」

「ああ!たぶんそうです。私、そこに住ませてもらってるんです。」

「!!!?!??!」

バルは驚愕の表情を見せた。開いた口が塞がらないでいる。

「まさか!!じゃあ、シクレ宮に通ってくる姫君たちはどうなさってるのですか!?」

「どうって・・・キルアさんが居ないって説明するとみんな帰っていきますよ?」

「姫君方を追い返しているのですか!?」

バルがすごい剣幕で透に責め寄った。

「だ、ダメでしたか?でも、どちらにしろキルアさんは女の人が訪ねてくる時間を避けてるし・・・。ちゃんと会ってあげたほうがいいんじゃないかって言ってみても一向に会う様子もないし・・・。」

それを聞いて、またもやバルは驚く。

「キルア様が、姫君方と会いたがらないのですか???」

「はい。」

バルは今度は頭を抱えて悩みだした。透は、何かいけないことを言ってしまったのかと思ってハラハラしていた。

「では、キルア様はシクレ宮ではどの姫君にも会っていないんですね?」

「まぁ、私を除けば・・・。」

「それでもシクレ宮に通いなさっているんですよね?」

「まぁ、いつも一時間くらいで帰りますけど。」

「なんでキルア様はシクレ宮に通われているのですか?」

「さぁ。私もそう思って聞いた事がありますけど、きちんとした答えは聞いてません。」

「・・・分からない。」

バルはまた悩みだした。


―――どうしたんだろう?


「シクレ宮はキルア様が姫君方と会うためにお使いになっていたのに・・・。」

「あの・・・キルアさんってやっぱり女好きなんですか?」

ぶっつけに、今まで誰かに聞いてみたかったことを透は思い切って聞いてみた。さすがにこんな質問は、キルア本人や訪れる女性たちには聞けない。

「はい。え、いや、あの。」

「やっぱり。・・・じゃああの通ってくる女の人たちってみんなキルアさんの恋人?」

「いえ、恋人というか・・・。キルア様はただ女の方が好きだからと幅広いお付き合いをなさっているわけではなく、ちゃんと理由があって・・・。」

「理由って?」

女の人と付き合うのにどんな理由があるのかと、透は首をかしげた。

「それはお答えしかねます。」

バルはこの件に関してはしっかりと口をつむった。


「キルア様について、あまりお話できないんですよ。他のことであれば何なりと。」

バルは優しくそう言った。
やはりどこかとし兄ちゃんに似ていると、透は思った。


「じゃあ、そうだな。何から聞こう?」






***





「で、お前たちの仲間はどうした?」

東国の第3王子は凍るような目で、目の前にひざまずいている男を見下ろしていた。
薄暗い、窓のない部屋。軍人らしき人が2人。王子の両側で待機していた。
男は両手両足を縛られた上に、体中に殴られたような痕がある。ところどころ、流血している。一人は太っていて、一人は痩せ男。2人ともガクガク震え、恐怖から自分たちに向けられている冷たい目線から必死に逸れようとしていた。

「・・・もう一度聞く。お前たちの仲間はどこへ行ったのだ?」
静かで、威圧されるその言葉に、男たちはただ震えるばかりで何も答えなかった。

「お、俺たちは本当に何も知らない!!あ、あいつの行き先なんて・・・。」

痩せ男の方が金切り声でそう言った。太った男は痩せ男に合わせて相槌を打った。
恐怖でもう声が出ないらしい。おかしなことに、震え上がっている2人は、痩せ男はさることながら、太っている男までもが本当に小さく見える。

「ならば、行きそうなところは?」

男たちは顔を見合わせた。そしてお互いに頷くと、また痩せ男の方が口を開いた。

「に、西!西だ!!あいつの故郷は西国だ!!」

「・・・そうか。」

痩せ男と小太り男は、自分たちが何とか質問に答えられたことに安堵していた。強張ってはいるものの、小さな笑みを浮かべている。


第3王子は無表情のまま両脇に居た2人の男に何か合図した後、その部屋から退出した。

そしてその後、その薄暗い部屋から悲鳴が上がる・・・。

「汚らしい声だ。・・・それがお前たちの最後の一声と言うわけか。哀れだな。」

王子は吐き捨てるようにそう言うと、また馬車でどこかへ向かった。













「海の国は全部で4つあります。1つは今現在、俺たちが居る国、東国です。東国はこの海の国々の中心的な国です。他は、西国、南国、北国があります。」

「西国はどんな国?」

「西国は比較的あまり治安が良くありません。国内が荒れていて、盗みなどの犯罪が多発しています。」


「南国は?」

「南国は東国に並ぶほど豊かですが、貴族と国民の貧富の差が激しく、時々反乱などが起こっています。まぁ、小規模なものですがね。」

「北国は?」

「北国は、唯一女性が治める国です。この国は小さな国ですが、一番安定した国だと言われています。」

「へぇ。女の王様かぁ。」

バルは透の質問に一つ一つ丁寧に答えるよう勤めていた。

「東国は?どんな国って言われているの?」

「う〜ん。そうですね、豊かな国とは言われていますが・・・実際にはまだまだですね。都市近辺は確かに豊かですが、少し外れたところに行けばまた状況は違います。それに、他にも問題は山積みですし、・・・これは東国だけの問題ではありませんが、まだ『水女』が決まっていません。」


「『みこ』?ですか?」

「ああ、トオル様は地上の方でしたね。『水女』というのは、『太陽妃候補』のことです。」

「『たいようひ』?」

「・・・トオル様は、なぜこの国が海の中であるのに関わらず、昼には日光があるのかご存知ですか?」

透は首を振った。

「あの光は、太陽妃様が作り出したものです。『太陽妃』というのは神官の中で最も高い位のことを言い、たった一人しかなることはできません。『太陽妃』になれるのは女性だけで、『太陽妃』になった方は必ず国王の正室、あるいは側室として迎えられます。正確に言うと、正室になられれば『太陽妃』。側室になられれば『太陽姫』と呼ばれます。現在は『太陽妃』です。・・・ここまではご理解なさいましたか?」

透は一応、頷いた。


「海においての日の光は全て太陽妃様がお造りになったものです。ですから、東国はもちろん、 西、北、南国も全て、太陽妃様の光によって照らされているのです。東国が4つの国の中心であるのは、太陽妃様がいらっしゃるからでもあります。」

「そっか、光がなくちゃ生活できないもんね!」

何とか理解した様子の透にバルがニッコリ頷いた。

「・・・じゃあ、月の代わりもあるの??」

「代わり・・・というか、トオル様は夜の海を見た事がないのですか???」

透は頷いた。


「だって、暇だからすることもないし、時計もないから・・・ここに来てからは日の出で起きて、日が 沈んだら眠るっていう生活だから。夜の海(空)なんて一度も見た事がないよ。」

「では、今度見てみてください。私がお答えするより、実際に見た方がきっと良い。」

「見れば、分かるんですか?」

「ええ、きっと気に入ります。」

「分かりました。」


二人が、お互い屈託のない笑顔を見せたので、そこにはなんとも言えない和やかムードが広がっていた。





「では、俺は仕事に戻りますけど、くれぐれもキルア様とのお約束を違えないように。」

「分かってます!」

「では。」

「送ってくれて、ありがとうございました。」

透がペコリとお辞儀をするとバルは笑顔で返し、馬車に乗り込んで元来た道を帰っていった。


「さて、じゃあ気分新たにお仕事でもしようかなっ。」








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